抗生剤にまつわる誤解
先日、診療で
「先生、インフルエンザにかかったらどうしたら良いでしょうか。遠方から来ているので、熱が出たら、ここに来ることはできないのです。」
と相談を受けた。
「インフルエンザはただの風邪ですから、家でゆっくり休んでください。」
とお伝えした。近医を受診するのも自由だ。ただ、抗インフルエンザ薬は気をつけてほしい。ウイルス増殖を止める薬だから、発熱して48時間以内に始めないと効果はない。ウイルスが増えている間にしか効かないのだ。さらに、もし効果があったとて、発熱期間を1日短縮するかどうかで、飲んですぐに治癒に向かう訳ではない。そして、タミフルに関しては、副作用として精神症状が知られている。イナビルやリレンザなどの吸入薬の副作用はあまり取り沙汰されることはないが、ウイルスの遺伝子の増殖に影響するならば、脳神経細胞に少なからず影響はするだろう。本当に必要かどうか。副作用を考えれば、内服や吸入せずに、発熱してしっかり汗をかけば良いだけのことである。
そして、解熱した後も身体にはウイルスが感染しているので、解熱したからと言って油断してはいけない。感染を広げないためにも、解熱後48時間は、自宅療養をしてほしい。
では、細菌感染に対する抗生剤はどうだろうか。実は、風邪の大半 およそ8−9割以上はウイルス感染であるため、インフルエンザなどの特殊な場合を除けば、抗ウイルス薬は存在しない。抗生剤は効果がない。抗生剤は、細胞壁がある細菌感染に対して効用があるのだ。
では、風邪で抗生剤が効くのはどんな場合と言えば、マイコプラズマ気管支炎だ。私が、自治医大の大学院生で働きながら、学位論文を書いていた時だ。熱はないのに、咳が7日経過してもよくならず、どんどん悪化した。同僚の先生が見かねて、抗生剤を処方してくれた。
「関根先生、それは、マイコプラズマだろうから、抗生剤を内服しないと良くならないよ。」
と先輩医師がマクロライド系の抗生剤を処方してくれた。内服したら翌日から咳が軽快していった。風邪はほとんどウイルス感染だから、抗生剤は飲まないと決めていたが、細菌感染もあるのだとその時、身を持って実感した。
それから、バイオレゾナンスを学ぶと、通常の風邪と言われるケースに、比較的多くマイコプラズマ感染が存在していることに気づいた。初期の場合にはほとんど漢方薬や振動療法で治癒に向かう。ところが、免疫力が低かったり、過労が続く場合には、そうはいかず、抗生剤を要することも少なくない。マクロライド系抗生剤を3日ほど使えば、回復は早い。
自然療法家の中には、抜歯しても、何しても、抗生剤だけは絶対に内服しないという人がいる。咳が続いており、マイコプラズマを推定できたため、抗生剤を進めるも断固として拒否する場合がある。抗生剤とは諸刃の剣ではあるが、使い方を間違えなければとても有効なのだ。そんな拒否をしなくても良いのだ。
こんなケースもあった。自然療法家のママさん。1ヶ月咳が続いた5才の我が子を医者を受診させず自宅療養していた。発症後1ヶ月経過して、初めて受診したのが当院だった。バイオレゾナンスで、マイコプラズマ、RSの混在感染を推定し、抗生剤と漢方を処方し、翌日には咳が治った。この場合、すでに気管支炎から肺炎に移行しかけており、そのまま放っておけば入院騒ぎになる危険な状態だったのだ。
自然療法も良いし、腸内環境は大切である。ただ、自分の健康状態を過信しないことだ。医療は適切に活用しよう。