医者が経営に不向きな理由

「開業しています。」

と言うと

「お一人でされていますか?」

「若いのに、頑張ってるね。」

とか、言われる事がある。私としても、6畳の診察室から始まり、いつの間にか大きくなって、みんなのお陰でここまでやってこれて、本当にありがたい。

と言っても、前橋で開業してから、もうすぐ5年になる。過去を振り返ると、やはり医師というのは、他の職種の経営者と違って、経営についてはど素人だと自覚せざるを得なかった。

一流の経営者から教わった経営の基本は3つ。

1、ターゲットを絞る

2、相手のニーズを十分に知る

3、相手とはWin-Winの関係で取引する

さて、上記3つを実行するために医師の障壁を話そう

1、医師はターゲットを絞ることに抵抗がある

これは、医療の公平性による。原則として、医療は公共財なので、全ての国民に平等に与えられなければならない。すなわち、医師は、患者を選んではいけないと教わる。来る者拒まずだ。病気で困った人が病院に来るならば、それを診るのが医者の仕事である。断ってはいけない。もっともなことである。だから、対象を絞るというのは、とても抵抗があるのだ。ところが、医者だって、得意不得意があるので、得意分野で攻めた方が良い。そして、自分が最大限、能力を発揮できる対象に向けて情報発信する必要があるのだ。

2、医師は相手のニーズを十分に知るというのは苦手である

これには2つの理由がある。

1つ目の理由は、医療における情報の非対称性による。すなわち、医療に関する知識は、圧倒的に患者より医師の方が多いので、コミュニケーションは医師から患者へ一方通行になることが多い。このため、患者のニーズを知るという行為自体がおざなりになる。

2つ目の理由は、医療の標準化による。ほとんどの医療がガイドラインによってパターン化しているため、患者のニーズを聞く前に、検査結果により治療方法がベルトコンベア式に決まり、患者に選択の余地を与えられないケースが多い。

3、相手のWinは考慮しない

この理由は、国民皆保険医療制度による。日本では、医療のほとんどが保険医療によって賄われているため、医療にお金がかかるという概念がない。上限制度もあり、自己負担があるとしても、医療費は、とても安い、または無料という意識が患者にも医師にもある。このため、検査や治療のサービスの料金についてあらかじめ相談したりする作業はない。

以上の理由から、医療はとても特殊なビジネスモデルによって成り立っていることになり、通常の経済理論が通じないと考える人が多い。

ところが、これから、保険医療が破綻して、自由診療が主体となるであろう未来の予防医療に関しては、上記の経営の3つの基本が重要にならざるを得ない。

もし、これから、開業したい医師、もしくは、現在開業している医師が、自分の未来を考えるならば、3つの経営の基本を考え直す、もしくは、最初から自分が経営することは手放し、経営のプロにお願いした方が良いと考える。

そして、開業するなら、体力のある若い内をお勧めする。

そんな若手開業医の仲間が増えると良いなと夢見ている。