サルトル先生との会話 vol.5
「サルトル先生、ちょっと大変になって来ました。先日開発した商品が大ヒットして、弊社に問い合わせが殺到して、商品の生産が追いつかない状況です。」
「それは、嬉しい知らせだね。何か、問題があるかね?」
「社員の残業が増えて、僕も含めて、ちょっと体力的に厳しい状況です。しかしながら、みんな生き生きと働いています。」
「まあ、それは良かった。では人材採用が必要になって来たわけだ。」
「はい、人材もそうですし、会社のスペースも手狭になって来ましたし、ちょっと、会社の拡大も視野に入れようかと。」
「そうじゃな。この時、大切なことは、Oくん、君の見栄っ張りで動かないことだ。」
「と、言いますと?」
「初心を忘れるな。会社を大きくする時というのは、みんな、カッコつけたがる。中小企業の社長が大企業に成長する時、社長自身が病気になったり、女性問題などで、足をすくわれる事もある。」
「はあ。まあ、僕はもともとモテないですし、その心配はないかと。」
「まあ、そうだな。君みたいな純朴な人は大丈夫だろう。慢心するなと言っているのだ。」
「はい、分かりました。肝に命じておきます。」
「ところで、君は、気づいただろうか。先日のA君の不祥事は会社にとって大打撃だった。このことと、会社の今の発展と関係ないと思っているかもしれないが、実は非常に関係があるのだ。君自身が大きく成長する時、つまり明が大きくなるとき、暗もとても大きくなる。なぜだか、分かるかな?」
「明と暗が対になっていると。」
「そうだ。君の使命が大きい つまり明が大きいほど、暗も大きくなるので、問題が現れる。この問題は、君が次のステージに進む時に課題として見せてくれるのだ。そして、君は暗を受け入れつつある。結構、未来型思考じゃの?」
「え、それは褒めているのでしょうか?」
「もちろんじゃ。なぜか教えてあげようか。つまり、この明が大きい人ほど、暗の打撃は大きい。今回、A君のこと程度で済んだのは、君が成長したからだ。人によって、この暗を受け入れ難い大きな葛藤を抱えている人は、自分自身が大きな病に襲われたり、会社自体が潰れてしまうような大打撃が起こる。」
「ふむふむ。僕の場合は、軽い方だと。それなら、明も小さいということでしょうか。」
「いやいや違う。わしの時代は、そのようにして、次のステージアップできずに、葛藤を抱えて、大病を患うことや大金を騙されるようなことを経験する人が多かった。そうしないと次に進めなかった。ところがじゃ、君のような人が現れて来た。すなわち、大打撃がなくとも、魂のレベルで成長することができるようになっておる。これは、わしにも驚きだ。」
「そうなんですか。まあ、褒められているということにしておきます。」
「君の行動は、非常に興味深い。ただ、油断は禁物じゃ。中小企業が大企業に成長する時に、枠組みが変わるので、従来の枠組みに満足していた人たちは着いて来れず、離れる人もある。」
「はい、それは覚悟しています。」
「それなら良いがな。なぜかと言えば、ホメオスタシスの原理じゃ。人間は、恒常性を維持しようとする。変化が嫌いなのだ。会社が変化すると自分たちが変化しなければならない。それに抵抗する人が現れるのだ。」
「A君が離れたのは、まあ、仕方なかったとして、役員たちが辞めてしまうのは困りますね。」
「そこでだ、君の度量が試されている。最初に伝えた通りだ。一人で経営しようとしない。対話を大切にする事。そして、結果を手放す事。最後は神の御心のままにじゃ。」
「サルトル先生、僕は、特段、宗教を信じている訳ではありません。」
「分かっとる。神というと語弊があるが、まあ、君の守護霊様、そして社員の守護霊様に任せるという事じゃな。」
「ううむ。分かったような分からないような。そもそもその手の話は僕は苦手なんです。まあ、村上和雄先生が言っているサムシンググレートのことなら何となく分かります。」
「まあ、それと同じじゃ。」
「分かりました。引き続き、瞑想を続け、自分の恐れに向き合うことにします。それから、経営のことは、やはり、今一番力になってくれている役員に思い切って相談してみます。社員との対話も大切にします。僕の人生が好転し始めました。サルトル先生のお陰です。ありがとうございます。」
「君は素直だから良い。次に会うのを楽しみにしているぞ。」
「はい。お願いします。」