本音で向き合う
「こんなに多くの人と深く話す職業の人はあまりいないでしょうね。」
と当院の看護師から言われた。
あまり自分の職業を客観的に考えたことはなかった。
そう言われると、飲食店の店長は、多くの人と接して、世間話をするだろう。
銀行員は、お金の相談を受けるだろう。
建築士は、家を建てるに当たって、環境の話を聞くだろう。
しかし、人の人生に踏み込んで話を聞くひとは多くないだろう。占い師は、人生に踏み込むかもしれない(笑)。
そう考えると、医師というのは特殊な仕事である。初対面の人が、実に多くの人生相談をしていく。心の問題から身体の問題まで。そして多くは、人に見せたくない部分を見せて解決しようとする。
「先生、助けてください。」
「私は、助けることはできません。ただし、あなたが病気を治すためのヒントをお伝えしましょう。」
そんな押し問答を毎日続けている。そんな中で、病気が治っていく人を見ることができることは、とても嬉しいことである。
病気治しとは、自分の人生に本音で向き合うことである。
普段、自分の本音を隠して生きている人は、私が本音を引き出そうとすると抵抗する。
そんな時は、待つしかないのだ。無理やり引き出そうとするとうまくいかない。
期待しない。でも諦めない。
私が、生きがいを感じて医師を続けることができている理由は、ここにある。それは、本音で話すことができることだ。社交辞令も建前も要らない。もしも、私が他の職業で、本音ばかり話していたら、怒られることも少なくないだろう。毎日本音で、ストレスフリーで働けることに感謝したい。