春は敏感な季節
診療していると、春になって、うつやパニックが増悪した患者さんが多い。中でも敏感さが増すようだ。
HSPという概念をご存知だろうか。
Hyper Sensitive Person
アメリカのアロン博士という女性医師が提唱した概念である。
1991年から敏感体質の人たちを研究して、HSPと名付けた。
発達障がいのグレーゾーンと似ている概念である。
敏感体質の人たちは、他の人以上に、自分を消耗するのである。
自分では気づかない内に、人のことに気を遣い過ぎてしまう。
また、人の感情にも敏感なため、身近な人が怒っていたり、悲しんでいたりすると、それを無意識に感じとってしまう。楽しい感情なら良いが、怒りや悲しみ、喪失感などの他者のマイナス感情を受け取ってしまいがちである。
それゆえ、自分の恐れの感情なども膨らみやすい。
会社や学校で、自分が苦手だと思う人に、何も言われていないのに、同じ空間に居ただけで息が詰まった経験はないだろうか。
何かを言われて恐怖を感じるのなら分かるが、相手が何も自分に対して働きかけていないのに、HSP人間は、その恐怖を増大して、あらぬ妄想を膨らませて、パニックに陥ってしまうことが多い。
鈍感の人からすると、何のことだかさっぱり分からないと言われる。
そんなHSP人間が、自分のエネルギーを消耗しないために、気をつけること。
1、自分が苦手な人や事柄などを把握し、自覚する。
2、苦手な人や事柄には、敢えて近寄らない。
HSP人間は、自分が苦手だと認識したくないために、敢えて、苦手な人に自分から話しかけて、嫌な思いをしてしまうことも少なくない。
苦手に人に対して、自分が何とか好きになろうとか、仲良くなろうという概念を捨てるべきである。苦手な人やものや事柄は避けても良いのだ。あなたが責任を負う必要はないし、全ての人と仲良くする必要もない。
3、どうしても、苦手な人や事柄と接する時には、自分を防御するものを身につけておく。
フラワーレメディー(私はレスキュースプレーを常備している)や好きな香りのアロマオイルでも良いだろう。あとは、なるべく時間を短く設定する工夫や、隠れ蓑になってくれる人を頼りにするのも大切だろう。
では、最後に、どうしてHSP人間は、そんな苦手な人に対して、あらぬ想像を膨らませて、自分自身を困らせてしまうのだろうか。
それは、自分自身の恐れを十分に見つめて認めていないからである。
一見、自分の外側にあると見える怖い上司や、苦手な場所というのは、自分が怖い、苦手と設定しているのだ。実は、これら怖い人や空間というのは、自分自身の心の闇である。自分の恐怖そのものだ。その恐怖に向き合い、受け入れるために、人生という舞台には、苦手な人も登場するのである。
誰もいないところで、苦手な人を思い浮かべて
「あなたのお陰で、私は気づきを得られました。ありがとうございます。」
と嘘でも良いから言ってみよう。
そして、現実には相手と理解し合う必要はない。相手は相手の都合があり人生がある。自分がとやかく介入する必要はない。苦手だと思ったら、逃げよう。
実際に相手と話す必要はないし、避けたままにも関わらず、毎日、感謝の言葉を自分の中で唱えていると、相手がいつの間にか去っていったり、一緒にいても気にならなくなるという不思議なことが起こる。
苦手なのは、相手ではない。自分の中のモンスターである。自分の中のモンスターと折り合いをつければ良い。
かく言う私もHSP人間である。
「先生が敏感なのは、患者さんの気持ちが分かるためですね。」
そう言われて、安心した。