愛こそ全て vol.1
僕は、とある自然療法雑貨を扱う会社の社員で、入社5年目。
この会社はちょっと変わっていて、毎朝、職場で、フラワーエッセンスを1本選ぶ。みんなでそれを飲んで共有する。僕は、この儀式が結構好きだ。
僕は、今日、LOVEと言うインディゴエッセンスを選んだ。
エッセンスの横に置いてある解説本に目を通す。
LOVEのエッセンスを必要とする人は、熱い火のような魂を持っているにも関わらず、怒ると心を閉じて無感情になり何も感じなくなってしまいます。つまり、内側は煮えたぎっているのに、表面的にはクールと言う状態です。内面はとても傷ついて怒っているのに、周囲の人の愛をブロックしている状態です。愛を遠ざけないで。あなたのマインドをオープンにしましょう。
LOVEを2滴水に入れて、飲んだ。
「さて、今日も頑張ろうっと。」
どうして、僕はこのエッセンスを選んだんだろう。
ふと立ち止まって、僕の中に、とても傷ついて怒っていることがあるんだと思った時、ツーっと涙が出てきた。
「さとるくん、なんで泣いてるの?」
同期のまみちゃんに見られてしまった。
「泣いてなんかないよ。」
「え、泣いてたよ。」
恥ずかしくて、トイレに駆け込んだ。
新人が今年の春に入ってきた。僕は、根岸くんと言う新人を担当して半年が経っていた。
彼に仕事を教えても、なかなか伝わらない。ジレンマを感じていた。
根岸くんはマイペース。きちんと教えたことはできる。でも、注意すると、ぷ〜っと膨れてしまって、どこかに行ってしまう。最近では、休みがちだった。
昨日、上司から呼ばれた。
「君、根岸の指導担当から外すから。」
「え、なんでですか?」
「根岸から、ちょっと指導がきついって相談があって、相性があるからさ。まあ、あまり気にするな。」
あ、もしかしたら、昨日の話で、僕は、傷ついて怒っているのかな?え、怒ってる?何に?
お昼休みにまみちゃんと一緒に社員食堂で、ランチした。
「ねえねえ。まみちゃん、僕、今日の朝、LOVEってレメディーを引いたんさ。」
「へ〜。珍しいね。何か、傷ついてることでもあるの?」
まみちゃんは、当社でも扱っているフラワーエッセンスの営業部門を担当しており、とても詳しい。
「傷ついてるってことでもないんだけどね。昨日、部長に呼ばれてさ〜。僕の指導方法が悪いからって、根岸くんの指導担当を外されたんだ。」
「え〜。そうなんだ。そのことで、怒っているの?」
「怒っているかどうか分からないけれど、僕としては、心から、彼に成長して欲しいと思って、あの手この手で指導していた。結果、それが彼には伝わらず、僕からの攻撃と写ってしまった。」
「そう言うのを、パワハラって言うのよ。」
「え〜。まみちゃん、ひどい。僕は、パワハラなんてしてないよ。」
「うんうん。分かってる。さとるくんが、パワハラなんてしないのは分かってる。まあ、相手から見たらそう写ってしまうってことはあるんだよね。」
「そうかあ。なんか、それがショックだったみたい。どうすれば良かったのかな〜って。」
「まあ、確かに、熱くか〜っと伝えてしまうってのは避けた方が良いけど、それは、さとるくんだけの問題じゃないと思うよ。」
「と言うのは?」
「私も昨年、新人研修の際、感じたことなんだけど。さとるくんが熱くなる時ってのは、相手を変えたいと思う時なのよ。」
「そうかあ。でも相手は変えられない。自分は変えられるって、この間の社員研修でも言ってたもんな。」
「そうそう。でもね、さとるくんは、根岸くんに伝え続けることは大切なのよ。それが伝わるかどうかは別にしてね。それが、愛情ってものなのよ。」
「伝わらないかもしれないけど、伝えるってこと?」
「そうそう。期待しないで、伝える。」
「でも、それが、パワハラって言われてしまったら?」
「そこが、問題なんだけどね。さとるくんのはパワハラじゃないよ。パワハラってのはね、愛情無くしてこちらのエゴだけで何かを押し付けてしまった時に起こるものよ。こちらが、愛情を持って相手のために伝えたことはパワハラじゃない。それをパワハラと受け取ってしまったら、それは相手の問題よ。つまり、根岸くんの問題が大きいと思う。指導担当が変わっても、また同じことが起こる。」
「指導担当が変わるってのは、根本の解決になってないよね?」
「そう、なってない。でも、会社の方針で、まあ、愛情を送る相手が変わると、根岸くんも気づくことがあると良いけど。」
「うん。僕もそう思う。だから、僕は、自分の愛情が相手から拒絶されたと感じたんだ。根岸くんは自分が変わるのが怖いから、僕の指導を素直に受け入れられなかったんだと思う。でも、この葛藤は人間が成長するのに必要だと思うんだ。」
「そうそう、葛藤なくして成長はない。だから、さとるくんは、傷つくこともないよ。十分やった。あとは、彼の人生だから。介入できない。自分の殻を破って成長するのも、殻を硬くなに守って成長しないことを選ぶのも、それは彼の選択だから。」
「そうだね。ただ、そう素直に思えない自分がいる。悲しかった。あんなに一生懸命伝えたのに、最後は、自分ではなく上司に担当を変えさせたってのはフェアじゃない。そんな肩透かしにあって、僕は、悲しかった。とても傷ついた。」
「辛かったね。ご苦労様。さとるくん。」
短い間のお昼休みに、まみちゃんに話を聞いてもらって、僕は気持ちが楽になった。聖人になんてなれないし、僕はとても悔しかった。悲しかった。もう傷つきたくない。この自分のマイナス感情は大切にしよう。
この気持ちが癒たら、もうちょっと高い視点で新人指導に携われるかもしれないが、今は無理だな。しばらくは、自分の気持ちを大切にしよう。