上咽頭の摩訶不思議

さて、慢性上咽頭炎という概念に出会ったら、面白いことに、多くの気づきが得られたのでご紹介したい。

慢性上咽頭炎については詳細は→こちら

この場所の炎症に対して耳鼻科的治療をすると、なんと、肩こり、頭痛、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎などのあらゆる病気が治ったのだという。

その治療法が、現在EATと呼ばれる、塩化亜鉛という薬剤を上咽頭に塗布する方法だ。慢性上咽頭炎のある人は、耳鼻科で、週1−2回この治療を受けるとおよそ3ヶ月ほどで良くなるという。

1984年に耳鼻科の堀口申作先生が著書で示されている。

そんな昔に、日本の耳鼻科の大家の先生がものすごい臨床例を報告されたにも関わらず、医学部で教えないのはなぜだろうか。不思議なことが多い世の中である。

それは、さておき

なぜ、上咽頭の治療で、全身の症状が良くなるのだろうか。

上咽頭とは、リンパ管や神経の豊富な場所である。さらに、扁桃組織があり、外部から、ウイルスや異物が入ってきたときに一番最初にキャッチする場所である。

また、嗅覚と近いので、脳の入り口とも言える。

さらに、気道の入り口であるから、あらゆる病原体に晒される場所であるから、門番の役割とも言える。門番が常に、風邪を引いていたら、全身が風邪を引いてしまうのだ。

つまり、人間の脳神経系と内分泌系、そして免疫系の要(かなめ)となる場所である。人間のホメオスタシスの基準を設定する場所であるとも言えよう。

現代は、昔と違って、病原体も抗菌薬の耐性を獲得して、強力になっている。インフルエンザでさえ、すでに新薬の耐性ウイルスが出現している。また、病原体だけでなく、化学物質もおびただしい種類のものが開発製造されているため、日々、柔軟剤や香水、PM2.5などの空気汚染物質に晒されているのだ。

こうなると、上咽頭は常に、異物に晒されて、慢性的に炎症が生じていることが多いのだ。

この上咽頭をケアすることは、体調を整えるために、ほとんど全員に大切なことである。小学校で上咽頭洗浄を教えたならば、インフルエンザ感染をどれほど防げるだろうかと思う。そして、花粉症発症を予防できるだろう。

では、上咽頭のケアは、医者に頼るものだろうか。

IgA腎症のときに、病巣感染の元として、口蓋扁桃を切除して、ステロイド点滴をすると良くなるという治療法があるが、確かに、腎症が治ることは重要で、それで救われている人が多数いることは確かだろう。そこまで、免疫疾患が進んでしまったら、口蓋扁桃をとることもやむを得ないだろう。

慢性上咽頭炎もひどくなってしまったら、耳鼻科的に化学的処理をして症状が出ないようにすることは理に適っている。

しかし、炎症が可逆的でまだ治る見込みがあるならば、私としては、自然の力でなんとかしたい。

私は、内科医であるので、耳鼻科的処置はできないし、そもそも、そのような大切な部分を薬で処理してしまうと、短期的に改善したと思われる症状も、長期的には何らかの不具合が出るのではないかと心配である。

そこで、当院で始めたのが、自宅でできる上咽頭洗浄である。

梅は古代から、殺菌効果、抗炎症効果が知られており、ミサトールという商品を取り寄せて、上咽頭洗浄を進めている。

エキナセアというハーブは、殺菌効果、抗炎症効果がある。このエキナセアの特殊なフローラルウォーターを上咽頭に垂らしてケアを始めた。

実は、鼻にオイルを入れて行う治療法は、インドの伝統医療であるアーユルヴェーダで用いられている方法だ。

インド人は、上咽頭が、人体の免疫系の玄関であることを理解していたようだ。

それと同じ発想で、毎日ハーブ水や梅エキスで上咽頭をケアしていくと、頭が爽快になり、風邪を引きにくくなるのだ。一時的に、炎症が強くなり、鼻汁や耳閉感がでる人もいるが、治癒過程では無理のないことだ。

この何とも不思議な上咽頭。

昨年から当クリニックの治療の要となっているが、全ての人が取り組むべき重要な免疫組織である。

慢性上咽頭炎というのは、一部の耳鼻科医、栄養療法に取り組む医師の間で広まってきた。また、分かりやすい一般向け本が出版されたお陰で、一般市民の方に認知されている。

しかし、ほとんどの医療者が知らない概念である。

「なぜ、こんな重要な概念が広まらないのだろうか。」

昨日と同様である。

医師ほど恐れが強い職業人はいない。人と同じ治療をして、訴えられないようにするのが一番だという概念を捨てられる勇気がある人は少ない。

本当のことが広まる世の中にしていきたいと思う。