サルトル先生との会話 vol.4
「サルトル先生、1ヶ月間、課題をしました。その結果、気づいたことは、私は、その社員のAくんに依存していたということでした。」
「ほほう。依存というのは?」
「つまりですよ。その。社長としては、お恥ずかしい話ですが、現場はAくんに任せていて、僕はほとんど現場のことは把握していなかった。他の社員からも信頼されているようでしたし、およそ任せていれば大丈夫だろうと思っていました。」
「それで、何か問題があったのかね?」
「瞑想を始めて数日経つと、何と、他の社員から、今までにない報告を受けるようになったのです。何と、Aくんが自分の立場を利用して、取引先との契約を私に無断で断っていたことがわかったのです。取引先から大きなクレームが来ていた。その処理をしないまま、そのような結果になっていたようです。」
「ふむふむ」
「その理由を本人にたずねてもはっきりしない。ただ、Aくんは、このことを私が知ったと分かるとすぐに、辞表を出してやめてしまったんです。」
「大事な右腕だったんだろう?」
「はい。そう思っていました。ところが、僕は、多分、彼のことを過信していたようです。彼は、とても仕事ができて聡明だし、そんな不祥事を起こすわけがないと思っていました。ところが、思い返してみれば、以前から、Aくんの行動については、小さな問題が起こっていたと思い出したのです。ちょいちょい、他の社員や取引先から報告を受けていたが、重篤にはとらえず、放置してしまっていたんです。自分が色眼鏡をかけて、事実を見ていなかったことに気づきました。」
「しかし、Aくんは、大変仕事ができたとすると、会社は今、とても困っているのかね?」
「いやそれが、Aくんの部下のBくんが仕事をフォローしてくれて、思ったよりも困っていないのです。何とBくんは、Aくんに遠慮して、能力を発揮しきれていなかったようです。」
「なるほど。」
「僕としては、何もしていない。ただ毎日瞑想しているだけなのに、そんなことがあって、ただただびっくりしています。」
「なぜ、今まで、彼の欠点を見ることができなかったと思うかね?」
「え?まあ、色眼鏡、すなわち彼は善人だという先入観があった。」
「ふむ、ここが重要だ。彼は絶対的に君の味方であるという先入観だ。それは何から来ているか、気づいたかね?」
「これはだ、前回、君も言っていた通り、彼に嫌われたくないという気持ち。自分の右腕である彼に嫌われて、会社を辞められたら大変だという恐れから、君は事実を誤認識していた。」
「そう言われるとそうです。」
「その嫌われたくないという気持ちは、君は以前に味わったことがないかね?」
「はい、ずっとあります。中学生の頃、とても仲の良かった友人から、突然、イジメを受けたことがあるのです。そのトラウマと関係しているかもしれません。」
「ふむふむ。もっと小さい頃、家族との関係ではどうかね?」
「僕の家族は、両親と弟が一人います。両親からは愛されていると感じていましたし、特段、何か辛かったことはないです。う〜ん。強いて言えば、両親が共働きだったので、小学校の頃、弟と一緒に家に帰ると誰もいなかったので、寂しかったのは覚えています。」
「ふむふむ。君の恐怖は、その友人からいじめられるのではないかという恐怖。それから孤独の恐怖だね。」
「はあ、そう言われると、孤独の恐怖というは今でもあります。今では、妻と中学生の娘と三人暮らしですが、妻と娘が、夏休みに青森の実家に帰ってしまって、僕が仕事で一人で家に残った時には、途方もなく孤独で辛かったのを思い出しました。」
「Oくん、よく打ち明けてくれたね。そう、その孤独への恐怖を自覚することで、それを手放すことに繋がる。その恐れを手放した時に、会社は次のステージに進むのだ。会社自体がステージアップするときに、社員の不祥事が明るみに出ることはよくあることだ。その時に、社長が恐れを手放すことができなければ、会社ごと潰れてしまうこともある。つまりは、腐ったりんごによって全体が腐ってしまう。ところが、Oくん、君は、恐れを手放しつつある。そこで、会社にとって一見良いことも悪いことも起こる。大事なことは、終始言っているが、君が社員をコントロールしようとしないことだ。ただ、初心に戻って、自分の恐れを見つめて、会社の理念を大切に生きることだよ。」
「はい、何となく分かってきました。ただ、Aくんの不祥事は僕にとってはとてもショックで、このようなことが、再び起こらないようにしたいのです。それと、僕は、社員は全員辞めさせてはいけないと勝手に思っていました。長く勤めることができる会社にしたいと。ところが、それは、僕の固定観念であったと気づきました。辞める辞めないは、本人の自由ですから、人の人生にまで介入することはできませんから。」
「そうだ。Oくんも、大分、意識下で成長したね。そう。他人の人生をコントロールすることはできない。今回、たまたまA君は辞めるという結果を選んだが、これは、ケースバイケースだ。病気になるという場合もある。それは、本当に神の御心のままだ。とにかく、君は、自分の使命に忠実に生きることが大切だ。使命に忠実に生きていれば、一見マイナスに見えることも、自然に物事がうまく進んでいく。」
「はあ。」
「自分のエゴで何かをしようとすると、自分が病気になったり、人生もうまくいかない。Oくんが、自分自身の欲ではなく、公のために何かをしようとすれば、人生が好転するのだ。」
「はい。少しずつサルトル先生の言っていることが分かってきました。まだまだ修行が必要そうです。もう少し、先日の瞑想を続けてみます。」
「そうだな。君は伝えた分、成長するから、教え甲斐がある。また、1ヶ月後に会おう。楽しみにしてるぞ。」