標準的治療とEBMは異なる

EBMという言葉を聞いたことがあるだろうか。
Evidence Based Medicine
実は、自治医大地域医療学教室は、EBM教育が盛んだった。
私が研修医の時に、唯一、製薬会社のお弁当ではなく、弁当持参のランチョンセミナーが地域医療学主催のEBMセミナーだった。当時の准教授の先生方が教えてくれたのを覚えている。
お弁当目当ての研修医はもちろん来ない。数名の研修医が集まった。
後に、この地域医療学の大学院に入学することになるのだが、そのときのセミナーは実に役立った。
そして、いかに臨床現場がEBMに即していないかを痛感した。

例えば、
「風邪を引いた時に、解熱剤を飲むと治癒が早まるか?」
という疑問がわく。
インフルエンザにおいて、アセトアミノフェンを1000mg5日間内服させて群と、プラセボを内服させた群のおいて
インフルエンザウイルスが消失するまでの期間、症状消失、解熱までの期間に差がなかった。
Jefferies S.et.al.Randomized controlled trial of the effect of regular paracetamol on influenza infection. Respirology. 2015 Dec 6. doi: 10.1111/resp.12685.
と証明されている。
他の感冒についての臨床研究結果を調べる必要があるが、少なくとも、上気道炎で最も症状が強い代表選手インフルエンザ感染において
解熱剤の代表であるアセトアミノフェン(商品名カロナール)は効果がないとされている。
なぜ、熱が上がるのか。それは、白血球が活動してインターフェロンが血液中に放出されるからである。
リンパ球が活動しやすくするために熱が上がる。それを下げたら、ウイルス感染が良くなるとは理論的に考えにくい。
臨床研究結果からも、基礎医学の立場からも、安易な解熱剤の使用は無意味と考えられるだろう。
でも、実際の臨床現場ではどうか。
解熱剤は、しばしば処方される。EBMを無視した診療が、現状なのだ。

「風邪予防に、イソジンうがい薬は有用か?」
「Prevention of Upper Respiratory Tract Infections by Gargling」(「American Journal of Preventive Medicine」 November 2005 Volume 29, Issue 4, Pages 302–307)
この結果で、水うがいよりもイソジンうがいの方が風邪を引きやすかったとしている。
口腔粘膜の常在菌が風邪予防に一役担っているから、イソジンうがい薬で常在菌を一掃してしまったら
むしろ風邪を引きやすくなってしまうだろう。
この発表を受けて、さすがに医療現場で風邪予防にイソジンうがい薬は保険診療で処方できなくなった。
これは、EBMの恩恵で、医療現場が無用な薬を処方しなくなった良い例であろう。

「創傷治癒に、消毒薬は有用か?」
実に、うがい薬と同じ理由で、創傷部を消毒薬で消毒するのは創傷治癒を遅らせることが研究で明らかになった。
この結果を受けて、消毒ではなく、洗う➡保湿保護のみで、火傷治療や創傷治療に取り組んでいるクリニックや病院は増えている。
これもEBMの恩恵で、医療行為が実際に変わった良い例である。

実際の臨床現場が、必ずしもEBMに即した医療を実践しているわけではない。
なぜか。
このような臨床研究は、医師が意識をもって検索し読もうと思わないと目に止まらない。
忙しい臨床現場で、私たちに入ってくる情報は、ほとんどが、製薬会社のMRから入っている情報である。
彼らは、自分の会社の製剤の効果がないという臨床研究をわざわざ医師に伝えることはない。効果があるという臨床研究結果を持ってくるのだ。
ここに、情報バイアスがある。
私たち医師は、科学者であるから、エビデンスを日々、自分の脳を使って検索し入手しなければ、本当のEBMに即した診療はできないのだ。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

日本語が含まれない投稿は無視されますのでご注意ください。(スパム対策)