ガンの早期発見は、人を幸せにするのか

現代医学の治療法を医学部時代から研修医、勤務医時代に渡って、学び実践してきた。

とても難しい言葉や理論を一生懸命覚えた。

最後は煙に巻かれたような感じになることも少なくなかった。思考が止まってしまう。でも専門用語が並び立てられるから、それらしいと納得させていた。

しかし、冷静になってみると、理論的ではないことがとても多い。

先日、医師向け雑誌を読んでいたら、これからは、血液1滴で、マイクロRNAを調べることで、ガンの早期診断が可能になるとあった。乳がんも前立腺癌に対して、感度も特異度も高い検査方法が開発されたそうだ。今まで利用されていた腫瘍マーカーはDNA断片としてのタンパク質を検出していたので、感度も特異度もいまいちで、がん検診としては使えないものが多かった。唯一、あてになるのが、前立腺癌のスクリーニングとしてPSAマーカーくらいであった。ところが、マイクロRNAを用いれば、がんの1期であってもあらゆるガンで早期診断が可能という。

さて、あなたは、このことを聞いて、自分も調べてみたいと思うだろうか。

50才を迎えたAさんを例に考えてみよう。

Aさんは、父親が前立腺癌で死んでいるため、自分もがんになるのではないかと心配だった。新しいガン検診があるというので、血液検査を受けた。結果、前立腺癌マイクロRNAが上昇していた。ガンの可能性があるとのことだった。

それを聞いたAさんは、とてもショックだった。

「やっぱり俺もガンで死ぬのか。」

と落ち込んでいても仕方ないので、病院に行って、詳しい検査を受けた。

泌尿器科。医師の診察の後、エコー検査、その他の詳しい血液検査をした。エコーで前立腺肥大が軽度認めるものの、異常はなかった。ただ、ガンの可能性は否定しきれないとのことで、3ヶ月に一度の検診としてエコー検査と血液検査を勧められた。

医者に言われた通り、Aさんは、仕事をやりくりし、3ヶ月ごとに受診した。

1年が経った頃、定期検査で、前立腺肥大が増悪し、バイオプシーで前立腺がんと診断された。手術と、術後のホルモン療法が始まった。

このストーリーを聞いて、どう思うだろうか。

結局、早期発見しても、医者から生活習慣指導は何もない。そして、発症を予防する治療も施されない。ただ、ガン化するのを待っているだけである。結局、ガンが目に見える形になってから治療が始まった。

これを不思議に思わないだろうか。

このような検査の問題点は3つある。

1、検査を受けただけで安心してしまう

多くの人が、高価な検診を受けただけで、体に良いことをした気分になってしまうことだ。日本では、宿泊型人間ドックが大はやりだ。ちょっとした旅行気分で人間ドックを受ける人も少なくない。

しかし、気をつけなければいけない。検査は治療ではない。

検診を受けただけで、あなたの体は健康になるわけではないのだ。検査によって、身体的ストレスも少なからずあるのだ。

検査を受けた後を大切にしよう。

2、「治す」より予防が大切である。

前立腺癌のマイクロRNAが高値と言われたAさんが、当院を受診したら、どうアプローチするだろうか。詳しくは、セミナーで話しているが、一つ言えることは、確実に、Aさんが前立腺ガンを発症しないよう支援する。

決して、半年もの間、ただ、ガン化するのを待つために検査だけしたりしない。少なくとも、病気を発症させない生活習慣指導と解毒し免疫力をあげる医療を提供する。

せっかく感度の高い検査をする意味は、ガン化を防ぐことである。発症を待つだけならば、早期発見する意味がない。「治す」より予防を重視しよう。

3、早期発見が、過剰検査や過剰治療を生み出し、心的身体的ストレスが増す

検査をして、ガンの可能性があると分かれば、心的ストレスを増大させる。前立腺ガンかどうか、エコー、生検などを繰り返して、検査によるストレスも大きいだろう。細胞診で、良性か悪性かはっきりしない場合には、もう、手術に踏み切るという治療もありうる。もしくは、あらかじめ、ホルモン療法だけしておきましょうということもありうる。

さて、早期発見、早期治療がこの人を幸せにするだろうか。

生活習慣を正せば、ガン化せずに済むことだってありうる。早期治療が本当に良いのだろうか。

早期発見の検診は、予防医療が軸にあるべきである。早く発見、早く治療するというよりは、ガンにならないように防ぐことが大切である。

感度の高い検査が開発されるのは良いことだ。しかし、それ以上に大切なのは、

「治す」から予防へ

病気にならない体づくりである。