「うつの8割には薬は無意味」

獨協医科大学越谷病院こころの診療科教授の井原裕先生の著書だ。
精神科の薬について批判する著書は多数あるが、
この本は、そのような本と一線を画している。
それは、何かというと、客観的なデータを元に議論しているという点だ。
うつの8割に薬は無意味というのを、抗うつ薬に関する論文の結果、
NNT(Number Needed to treat)3~8という数字から客観的に表現している。
NNTとは、抗うつ剤を内服している患者1人が治るために、
何人に薬を投与する必要があるかという数字である。
3〜8の間をとって、5とすれば、うつの薬に意味があるのは5人に1人。
これは、医学の世界では、NNTは10以下であれば、結構薬が効く方だと判断する。
だから、5と言うのはなかなか良い値なのだ。
この結果を持って、医師が抗うつ剤を投与するのも、患者が飲むのも自由である。
一方で、5人に1人しか効かないのなら、私は飲まないと選択するのも自由なのである。

診療していて思うのは、患者さんに選択肢を提供すると、皆とても迷う。
その結果、医師に選択してもらうと安心し、何も考えずに薬を飲む結果になる。
医師は、5人に1人薬が効けばまずまず良いだろうと思って処方している。
患者は、私に出された薬は100%効くと思って飲む。
このギャップが大きな不幸を生むことになる。

この本で最後に紹介された考え方がとても参考になった。
医者と患者はえせ契約を結んでいると。
患者は医者に過大な期待をしており、自分の病気は何でも治してもらえると思っている。
医者は医療は万能ではないということを知り、患者の医療への過大評価を知りつつ、
その誤解を解こうとしない。
その結果、医師と患者はえせ契約の中で医療が実践されることになる。
医療は万能ではない。魔法の薬なんてないのだ。
医者は何でも知っているわけではない。
そして、医療には限界がある。
このことを我々医療者は、もっと説明していく必要がある。
医療への幻想を打ち砕き、現実に向き合う必要があるのだ。

「あなたの病気を治せる精神科医はどこにもいません。
治すのはあなた自身なのです。」

まさに私が常日頃考えている事が表現されていて、びっくりした。
人間は、皆が考えているよりずっと複雑な生体なのだ。
だからこそ、セルフケアが重要だ。

私たちは、ぐんまHHCで、
自立した健康づくりについて学ぶ場を提供していく。
医療への誤解を解きながら、医療とうまくつき合う方法
うまく医療を利用する方法を学んでもらいたい。
その上で、セルフケアを取り入れていけば良いのだ。